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                   高黎貢山の戦い
                          こうれいこうざん                                           
                                                  2010 5 十勝毎日新聞にて連載    
  中華人民共和国雲南省                                              2010 1 
         
    
                〈高黎貢山の大山脈。これで標高3500bあたりであろうか。2010 1 2
  
 
           <高黎貢山系の日本軍兵士〉
  
 
  
       (バスは止められた。諦めるしかない〉   
 
    
     
      〈ぺー族〈白族〉の中学生明君〉
 
        
    〈4歳のハイイエンちゃん家族はバイクに四人乗り〉
 


 翌日の1月2日、夜明け前のバスターミナルから私たちは「玉砕の町騰越(騰沖)」を発った。3000bほどの峠を越えた二時間後、再び「怒江」にでた。

ここから私たちは、怒江沿いに計450`に亘る北上を開始した。今回私は、この「怒江」にこだわった。大河「怒江」の大峡谷を、陸路で行けるだけ行ってみようと考えた。
 川の西岸には、高い山々が連なっている。高黎貢山こうれいこうざんである。 山と銘打っているが、3500bを越える峰が500`続く大山脈である。

1944511日、国民党軍の反攻作戦は、この怒河を10箇所ほどの渡し場からゴムボートで渡航することから始まった。
 数万の兵士が1人の犠牲者も出さず渡河し、この山脈に分け入った。圧倒的な兵力を手にした国民党軍には、油断があった。低温と急斜面、そして飢餓に兵士たちは泣いた。
 更に日本側(第56師団)はこの作戦を、事前に察知していた。墜落機から手に入れた暗号解読書を元に、作戦の全てを知っていたのである。雪・みぞれに凍えながらも、兵士たちは広大な稜線に防衛陣地を構築し、突撃を繰り返す中国兵に銃弾の雨を浴びせた。こうして、最初の反攻作戦だけは失敗に終わった。その峰々が、村々の間から見える。さすがに、広大な山塊である。稜線が、ミャンマーとの国境にもなっている。

バスは急斜面の下で、停車した。道路工事の発破作業のため、午後3時まで通行止めだという。3時までなんと、あと2時間もあるではないか。乗客と一斉に抗議するものの、諦めざるをえない。気持ちを、切り替えるしかないのである。
 周辺は大峡谷が広がり、山の急斜面には少数民族が静かに暮らしている。発破作業の爆発音が繰りかえされる。まるで日中両軍が、戦闘しているような錯覚を覚える。

気温が上がり、半袖姿になる。道路沿いに育ったサトウキビを地元の人と一緒に齧ったり、ペー族の中学生明天龍君から教科書を見せて貰ったりと、時間潰しはあっという間に終了した。

やがてバスは、「怒江リス族自治州」に入った。ホッとした気分に浸ったとたんに、検問所が待ち構えていた。
 すると先ほど一緒にサトウキビを齧った女性が突然バスを飛び出し、なんと兵士たちと小競り合いを始めた。車内に、緊張が走る。
 その結果か外国人の私たちもバスから降ろされ、兵士に囲まれ旅行の日程などが詰問された。幸運なことに英語のできる兵士が登場し、比較的スムーズに終了し胸をなでおろしたが、地元民には持ち物検査まで実施している。
 この地域で今回私たちは計4度の検問を経験したが、どうも納得がいかない。「麻薬対策と国境地帯」というのが表向き理由であるが、麻薬犬が居るわけでもなく、軍人たちの横柄な態度だけが目立っていた。

現在の中国は、チベットやウイグルの少数民族問題に揺れている。この検問もどうやら、雲南省に多く暮らす少数民族に対する中央政府の威圧政策のように感じ取れた。
 
 午後7時に、日が落ちた。薄暗い車窓の風景を眺めていると、「アッー」と声を上げてしまった。怒江の上を黒い影がスッーと駆け抜けていくのが、連続して目に飛び込んだ。
 地元リス族の人々が、橋のない怒河の両岸にワイヤーロープを設置し、滑車(リユースウ)を伴って命がけの渡河をしているのである。
 ここではリス族ペー族等の人々が、電気・水道もないものすごい急斜面に暮らしている。数百年に渡るこの静かで変わらぬ素朴な営みを眺めていると、本当にあの戦争は一体なんだったのであろうか。

     
 
 

    〈サトウキビを食べる。隣の女性が検問所で騒動を起こす〉        〈村々から見える高黎貢山の峰〉  

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